エピゲノム・・・後天的な要因でに遺伝子の働きは変わる

遺伝子の働き復元 がん治す


食生活などの生活習慣や老化、ストレスといった後天的な要因で遺伝子の働きが変わる「エピゲノム」と呼ばれる現象を、病気の診断や治療に役立てる試みが広がりつつある。米国ではがんの治療薬が登場し、国内でも臨床試験が進められている。

◇エピゲノム利用 治療薬承認へ

人それぞれ姿形などが違うのは、遺伝子の塩基配列の違いによると考えられてきた。だが近年、塩基配列は同じなのに、外からの刺激によって遺伝子の働きが変わり、それが違いを生むことがわかってきた。これがエピゲノムだ。

エピゲノムの具体的なしくみとしては、特定の分子が遺伝子にくっつくことで、遺伝子の情報が読み取れたり、読み取れなくなったりする「メチル化」や「ヒストン修飾」がある。

受精卵ではほとんどの遺伝情報が読み取れる状態になっいるが、受精卵から分化が進み、心臓や筋肉、神経などと決まった役割を持つようになった細胞では、メチル化などが進み、それぞれの細胞で必要な遺伝子しか読めないようになっている

だが、生活習慣やウイルスなどの影響で、本来は読み取る必要がある遺伝子が読めなくなったり、逆に読めないはずの遺伝子が読めるようになったりすると、がんなどの原因になると考えられている。

国立がん研究センター研究所の牛島俊和部長によると、胃がんと肝臓がんの発生には、それぞれピロリ菌と肝炎ウイルスによる炎症が慢性化することで、発がんを抑えるブレーキ役の遺伝子などがメチル化し、読み取れなくなることが重要らしい。

メチル化などを正常に戻すことでがんを治そうという薬も登場している。国立がん研究センターなども薬の臨床試験を実施した。

米国で2004年に承認された骨髄異形成症候群に対する抗がん剤アザシチジンは、メチル化をじゃましてがんの進行を抑える。20カ国以上で販売され、日本でも年明けに承認される見通しだ。

ヒストン修飾をじゃまする薬として、皮膚T細胞性リンパ腫という珍しいがんの治療薬ボリノスタットが06年に米国で承認された。16カ国で使われ、日本でも万有製薬(現・MSD)が6月に承認申請した。牛島さんは「他の抗がん剤などと組み合わせて大きな治療効果が見込める」と期待する。

◇糖尿・アルツハイマーも研究

エピゲノムの情報を発がん予測に使う研究も進む。

国立がん研究センターの金井弥栄病理部長は、肝臓がん患者らの遺伝子を分析。メチル化する4500の遺伝子の中から25個を絞り込み、14個以上でメチル化が起きている患者は肝臓がんになりやすいことを突き止めた。金井さんは「来年には他の医療機関に協力を呼びかけてデータを増やし、医療現場で使えるようにしたい」と意気込む。

牛島さんによると、カナダの研究グループが精神病で自殺した患者の脳を調べ、メチル化した遺伝子が多かったと報告。糖尿病やアルツハイマー病、パーキンソン病など、がん以外の病気でも関連性の研究が進んでいるという。

◇再生医療に応用も期待

エピゲノムの情報は万能細胞を使った再生医療に応用できると期待されている。

分化した細胞に3〜4個の遺伝子を入れると、さまざまな細胞になれるiPS細胞(人工多能性幹細胞)を作製できる。しかし、もとの細胞によって、どんな細胞になりやすいかが異なる。それは作製過程で、もとの細胞のエピゲノムがどれだけ「リセット」されたかによると考えられている。

国立成育医療研究センターの阿久津英憲室長は「扱いやすいiPS細胞を見極めるのに、エピゲノムが重要な手段になる」と話す。

体の細胞やiPS細胞など千種類の細胞のメチル化などを数年かけて調べる「国際エピゲノム解読計画」も、欧米で動き出そうとしている。

◇エピゲノムのしくみ◇

細胞に必要な遺伝子を働かせたり(オン)、不要なものの働きを抑えたり(オフ)するエピゲノムのしくみは主に二つある。

「メチル化」は、メチル基という分子が遺伝子の特定の場所にくっつくことで、遺伝子をオフにするしくみ。

もう一つは「ヒストン修飾」。遺伝子の本体であるDNAは伸ばすと2メートルにもなる。通常、ヒストンというたんぱく質に巻き付いている。ヒストンにメチル基やアセチル基という分子がくっつくと、巻き付きがゆるんで遺伝子が読み取られる
 [2010/12/03 朝日新聞]